2016年12月

東京の夜は、空より、地面の方が光っている。

昼ごはんを食べに行った帰り、
いつも持ち歩くノートにつけていた
ピンバッジを落としました。

気に入っていたものだったので
このまま見捨てる気にはなれません。
仕事帰り、落としたと思われるルートを辿ってみます。

ふだん以上に下を見ながら
ゆっくりした足取りで進んでいると、
キラン、と光る物体を発見。
あ、あれかも!
淡い期待を胸に顔を近づけてよく見るも、なんだかちがう。
落ち込む暇もなく、またすぐキラッと光るものを発見。
あ、あれか!うーん、これもちがった。
その正体のほとんどは、飴やガムの包み紙。
紛らわしいほどにそれらで地面がきらきらしています。

結局、探し物は見つかりませんでした。
僕のバッジもどこかで地上の星になっているのでしょう。

人類みな同級生のお店。

その定食屋は大きな店ではありません。
6畳くらいの小さなお店で、
10人も入れば満席です。
料理は美味しいけれど、
喧伝するほどのものではない。
それでも毎日のように足が向く定食屋があります。

いちばんの理由は、
マスターのおばちゃんとお客さん。
僕と倍くらい歳が離れているおばちゃんや、
年齢も、性別も、職業も、ばらばらのお客さんたち。
損得の関係はなんにもなく、
肩書きを脱いだただの人が集まっている。
漂うのは放課後のようなワイワイ感。
みんな同じクラスの生徒のような感じで、
お昼が楽しい時間になっています。

人類みな同級生。
そういう場所が僕はいちばん好きです。

「お姉さん」は、お金になる?

いつもは「おばちゃん」と話しかけてくる
親戚の子どもが、お正月の時だけ、
「お姉ちゃん、お姉ちゃん」と言ってくる。

「お姉ちゃん」
この一言のためだけに
お年玉をあげてる気がする。

そんな話を友人から聞いた時、
そういうものかもしれない、と妙にハラオチしました。

「お姉さん」という言葉には、
代価を支払う魔力があるのかもしれない。

おじさんにナンパされたら、忘れられない夜になりました。

先日、電車で知らないおじさんにナンパされました。

田園調布が地元の人といっしょに帰っているとき、
昭和時代の田園調布と中目黒について話していたら、
目の前に座っていた背広を着たおじさんが
「昔の中目黒はよかったね。
 いまはもうオシャレになっちゃってだめだね」と
とつぜん、二人の会話に入りこんできました。

それから、おっちゃんのナカメトークに花が咲き始めます。
「ごめんね、どうしてもナカメの話が気になっちゃってね」
「中目黒は赤提灯の町だったんだよね」

そしてしまいには、
「お兄ちゃん、ちょっとこのあと飲みに行くかい?
 中目黒のほんとうのいい店を紹介するよ」
と誘われ、そのあと居酒屋と寿司屋に連れてってもらいました。

「かんぴょうは、巻きじゃなくて握りがうめえんだよ。
 うには、すだれにかぎるね
 うにっつったら、ふつう海苔で巻くでしょ?
 そうじゃねんだよ。すだれね、すだれ」

「ここのお寿司屋さんが考案したんですか?」と僕。

「ちがうよ。俺が考えてマスターに頼んだんだよ。
 発想だよ、発想。わかる?発想だよ」

「どうだ、ここの中トロのサシ、うめえだろ」

「おいしいっす。めちゃめちゃうまいっす。さすがっす」

と、なんだかわけのわからないお寿司談義を受け、
たくさんご馳走になりました。別れ際に、

「たぶん次すれ違っても、忘れていると思うけどごめんねー!」
と意気揚々におっちゃんは家族の待つ自宅に帰っていきました。

その人と過ごした時間は、わずか数時間です。
でも、たぶん、一生忘れない時間になりました。

ナンパは、異性より同性のほうが、たぶんおもしろい。

ゲームのレベル上げをするか。 自分のレベル上げをするか。

電車の中ではいつも
スマホを手に取るか、
本を手に取るかの戦いです。
同時に上げられたらいいのになあ。