忘れられない夏の夜。

中学2年のときの夏の夜。
眠りに落ちたあと、
急に目が覚めました。

部屋の電気が点いていて、
「あ、消さなきゃ」と思い、
身体を起こそうとすると
ある異変に気がつきます。
足が腕が首がまったく動く気配がないのです。
指の先すら動かない。

金縛りというやつか、と思っていると、
突然、胃のほうから口のほうへ
ものすごい勢いで汚物が逆流する感覚が襲ってくる。
仰向けになっていたぼくは、
このまま吐いたら大変だと不安になり、
身体に懸命に信号をおくります。
動け、動け、動けえええ!
でも、意識とは反対に、
ピクリとも反応してくれません。

軽いパニック状態になっていたぼくは、
眼球だけは動くとわかり、
瞳をキョロキョロさせていたら、
前方に髪の長い女の人が佇んでいるのを見つけました。

パニックになりました。

そのあとのことは全く覚えてません。

その日を境に、ある変化がぼくに訪れます。
友だちから、
「タイちゃん、バカになったね」と
言われることが多くなったのです。
もしかしたら、いえ、きっと、
木村泰斗という器の中身が、
あのとき入れ替わったのです。

ぼくがバカなのは、
ぼくのせいじゃありません。
本来の頭のよかった自分は、
どこかにいってしまったのです。