豆腐屋

夜明けよりだいぶ前の時間。
いつも通りの仕事をこなす豆腐屋の主人と、
その二階建ての建物のうしろから
ライトアップされた東京タワーがわずかに見える。
薄靄のかかった空のなか、光りの微妙なぐあいが
不思議な雰囲気をかもしだしている。

最近お気に入りの景色。
ある商店街の小さな豆腐屋さんなんだけど、
なにやらすごい存在感がある。

ある日の朝、部活に向かっているであろう
高校生くらいの男の子が、信号待ちをしながら
通りをはさんだ豆腐屋の主人に
あいさつをしている光景を見た。
「おはようございまーす。」と高校生。
「お、気ぃつけてな。」と返す豆腐屋の主人。

なにげない朝のひとシーン。
でも、都会の真ん中で見るその光景は、
マンガか映画のように非現実的にうつった。
同時にそのお店の持つ存在感の理由が、
少しだけわかった気がした。

名所でなくても、
来てよかったと思える場所は、
いっぱいある。

イビケストラホール。

イビキを聞くのって
あまり気持ちいいものでは
ありませんよね。

ぼく自身、イビキをかくほうなので
そんなに強くは言えないんですが、
眠くて眠くて仕方がないとき
イビキを聞いたりしたら
もうその雑音が気になって
なかなか眠りの世界にいけやしません。

ところがですね、
この間健康ランドの仮眠室に
行った時のことなんですが…

「ゴォーゴォー」
「ウガッ!」
「スースー」
「ンゴゴゴゴ!!」

とその部屋では
イビキの大合唱が行われていたんです。
しかも、

「スースー」
      「ンガッ!」
            「ゴッ!」

みたいにみんな寝てるはずなのに
指揮者でもいるのかとツッコミたくなるくらい
他人のイビキと合わせるのが上手くて
なんかもうそのイビキたちが絶妙な音色に
感じてきちゃったんです。

イビキって起きてるときには出せない音で
その音をハーモニーで聞ける仮眠室って
なかなか貴重な空間だなと
イビキの大合唱を聞きながら思ったのでした。